近年、採用活動のデジタル化が進む中で、特に若年層へのアプローチに有効な手法として「Instagram採用」が注目されています。
しかし、「何から始めればいいかわからない」「設定が難しそう」といった不安を抱える採用担当者の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そのような初心者の方でも迷わずInstagram採用を始められるよう、アカウント作成の具体的な手順から、採用効果を最大化するための最適な設定方法、さらにはアカウント作成後の初期運用ステップまでを、完全ガイドとして網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、あなたも自信を持ってInstagram採用の第一歩を踏み出せるはずです。
Instagram採用アカウントとは
まず、Instagram採用アカウントがどのようなもので、なぜ採用活動において重要なのかを理解しましょう。
企業がすでに持っている公式アカウントとの違いを明確にすることで、より戦略的な運用が可能になります。
Instagram採用アカウントの定義と役割
Instagram採用アカウントとは、その名の通り採用活動に特化して運用されるInstagramアカウントのことです。
主な役割は、求職者、特にInstagramを日常的に利用する若年層に対して、企業の魅力や社風、働く環境などを視覚的に伝え、エンゲージメントを深め、最終的に応募へと繋げることです。
求人サイトや企業の採用ページが「待ち」の採用手法であるのに対し、Instagram採用は企業側から積極的に情報を発信し、潜在的な候補者と接点を持つ「攻め」の採用手法と言えます。
企業公式アカウントとの違い
多くの企業はすでに製品やサービスのプロモーションを目的とした「企業公式アカウント」を運用しています。
採用アカウントは、これとは明確に目的とターゲットが異なります。
| 項目 | 採用アカウント | 企業公式アカウント |
|---|---|---|
| 目的 | 採用活動(母集団形成、ブランディング) | 製品・サービスの販促、顧客エンゲージメント |
| ターゲット | 求職者(新卒、中途)、転職潜在層 | 顧客、見込み顧客、ファン |
| 発信コンテンツ | 社風、社員紹介、働き方、オフィス環境 | 製品情報、キャンペーン、イベント告知 |
| KPI例 | 応募数、フォロワー数、エンゲージメント率 | 売上、ウェブサイトへの流入数、ブランド認知度 |
このように、目的とターゲットが異なるため、発信するコンテンツのトーン&マナーも変わってきます。
採用アカウントでは、より「人」にフォーカスし、企業の内部をオープンに見せていくことが求められます。
アカウント作成で得られる3つのメリット
採用アカウントを新たに作成することで、以下のようなメリットが期待できます。
1.若手人材に効率的にリーチできる: 日本の10代・20代のInstagram利用率は70%を超えており [1]、従来の求人媒体では出会えない層に直接アプローチできます。
2.企業の雰囲気を視覚的に伝えられる: 写真や動画を通じて、オフィス環境や社員の働く様子をリアルに伝えることで、求職者の入社後のミスマッチを防ぎます。
3.低コストで採用活動を始められる: アカウントの作成・運用は無料から始められます。広告を活用する場合でも、他の採用手法と比較して低コストで運用できる可能性があります。
アカウント作成前の準備(戦略設計)
アカウントを実際に作成する前に、しっかりとした戦略を立てることが成功の鍵です。
目的が曖昧なまま運用を始めても、期待する成果は得られません。
採用目的とKPIの設定
まず、「何のためにInstagram採用を行うのか」という目的を明確にします。
目的によって、追いかけるべき指標(KPI)も変わってきます。
目的の例
・新卒採用の応募者数を増やす
・採用ブランディングを強化し、企業の認知度を向上させる
・採用ミスマッチを減らし、内定承諾率を高める
KPIの例
・応募数: プロフィールリンクからのエントリー数
・フォロワー数: アカウントのファン(潜在候補者)の数
・エンゲージメント率: 投稿への反応(いいね、コメント、保存)の割合
・プロフィールアクセス数: アカウントに興味を持った人の数
ターゲット人材のペルソナ設定
次に、「誰に情報を届けたいのか」というターゲット人材像(ペルソナ)を具体的に設定します。
ペルソナが明確になることで、発信するコンテンツの方向性が定まります。
ペルソナ設定の項目例
| 項目 | 設定例 |
|---|---|
| 基本情報 | 2026年卒業予定の大学3年生、21歳、女性、都内私立大学在学 |
| 専攻・スキル | 文学部、英語が得意、基本的なPCスキル |
| 性格・価値観 | 好奇心旺盛で新しいことに挑戦したい、チームで協力して働くのが好き |
| 情報収集の方法 | InstagramやX(旧Twitter)で情報収集、企業のリアルな声を知りたい |
| 企業選びの軸 | 社風の良さ、成長できる環境、ワークライフバランス |
競合アカウントのベンチマーク分析
同業他社や、自社がターゲットとする人材から人気のある企業が、どのようなInstagram運用を行っているかを分析します。
これをベンチマーク(指標)とすることで、自社の戦略をより洗練させることができます。
分析のポイント
・プロフィール設定(アイコン、自己紹介文、ハイライト)
・投稿コンテンツのテーマや切り口
・投稿のデザインや世界観
・フォロワー数とエンゲージメント率
・ハッシュタグの使い方
コンテンツ方針の決定
上記の分析を踏まえ、自社アカウントで発信するコンテンツの全体的な方針を決定します。
ペルソナに「このアカウントをフォローしたい」と思わせるような、価値ある情報を提供することが重要です。
コンテンツ方針の例
・「若手社員のリアルな働き方」を中心に発信
・「エンジニアの成長環境」に特化して専門的な情報を発信
・「地方で働く魅力」をテーマに、地域貢献やライフスタイルを発信
この先も、構成案に沿って各セクションを執筆していきます。
Instagramアカウント開設の手順
戦略設計が完了したら、いよいよアカウントの開設です。
以下のステップに沿って進めれば、初心者でも簡単に行えます。
STEP1: アプリダウンロードと新規登録
まずは、お使いのスマートフォンにInstagramアプリをダウンロードします。
- App Store(iPhoneの場合)または Google Playストア(Androidの場合)を開きます。
- 「Instagram」と検索し、アプリをインストールします。
- アプリを開き、「新しいアカウントを作成」を選択します。
- 電話番号またはメールアドレスを登録し、認証コードを入力して次に進みます。
STEP2: ユーザーネームとアカウント名の設定
次に、アカウントの「顔」となる名前とユーザーネームを設定します。
- 名前(アカウント名): 企業の正式名称に「採用」や「Recruit」を加えるのが一般的です。(例: 株式会社〇〇 新卒採用)
- ユーザーネーム: 半角英数字と一部の記号が使えます。企業名に関連し、覚えやすいシンプルなものにしましょう。(例:
marumaru_recruit)
ポイント: ユーザーネームは後から変更可能ですが、頻繁な変更はフォロワーの混乱を招くため避けましょう。
STEP3: ビジネスアカウントへの切り替え
初期状態では「個人アカウント」になっているため、採用活動に必要な分析機能などを使える「ビジネスアカウント」に切り替えます。
- プロフィール画面右上のメニュー(三本線)をタップし、「設定とプライバシー」を選択します。
- 「アカウントの種類とツール」をタップします。
- 「プロアカウントに切り替える」を選択します。
- 画面の指示に従い、ビジネスに最も近いカテゴリを選択します。(例: 「製品・サービス」「コンサルティング会社」など)
STEP4: カテゴリとビジネス情報の入力
ビジネスアカウントへの切り替えプロセスで、企業の連絡先情報を設定します。
- 連絡先オプション: メールアドレス、電話番号、会社の住所などを入力します。
- これらはプロフィールに表示され、求職者からの問い合わせ窓口となります。
- Facebookページとのリンク: Instagram広告の出稿や、より詳細な分析機能を利用するために、会社のFacebookページとリンクさせることが推奨されます。持っていない場合は、この機会に作成しましょう。
ビジネスアカウントで使える採用向け機能
ビジネスアカウントにすることで、採用活動を加速させる様々な機能が解放されます。
ここでは特に重要な3つの機能を紹介します。
インサイト機能で効果測定
インサイト機能は、アカウントのパフォーマンスを分析するための強力なツールです。
投稿ごとのリーチ数(投稿を見た人の数)やエンゲージメント数、フォロワーの属性(年齢、性別、地域)、アクティブな時間帯などをデータで確認できます。
このデータを基に、投稿内容や投稿時間を最適化していくことが、運用成功の鍵となります。
問い合わせボタンの設置
プロフィールに「メール」「電話する」といったアクションボタンを設置できます。
これにより、求職者が興味を持った際にワンタップで企業に連絡できるようになり、コミュニケーションのハードルを下げることができます。
Instagram広告の出稿準備
特定の投稿を広告として配信し、ターゲットとする層(年齢、地域、興味・関心など)に強制的に表示させることができます。
説明会の告知や、特に見てほしい投稿を拡散したい場合に有効です。
広告を出稿するには、前述のFacebookページとの連携が必須となります。
プロフィール設定の完全ガイド
プロフィールは、アカウントの「第一印象」を決める最も重要な要素です。求職者がアカウントを訪問した際に、フォローするかどうかを判断する時間はわずか数秒と言われています。
ここで紹介する5つの要素を最適化し、魅力的なプロフィールを作成しましょう。
プロフィール画像の選び方(4パターン比較)
プロフィール画像(アイコン)は、アカウントの顔です。
「誰のアカウントか」が一目でわかり、「どんな雰囲気の会社か」が伝わることが重要です。
| パターン | メリット | デメリット | おすすめの企業 |
|---|---|---|---|
| 企業ロゴ | 信頼性、認知度の高い企業に有効 | 堅い印象を与える可能性がある | 大企業、BtoB企業 |
| 社員の集合写真 | 仲の良さ、活気ある雰囲気を伝えられる | 人数が多すぎると顔が認識できない | ベンチャー企業、中小企業 |
| 採用担当者の顔写真 | 親しみやすさ、個性を出せる | 担当者変更時に差し替えが必要 | 担当者のキャラクターを活かしたい企業 |
| オフィスの写真 | おしゃれなオフィス環境をアピールできる | 無機質な印象になる可能性がある | デザイン性の高いオフィスを持つ企業 |
アカウント名の最適な付け方
アカウント名は、検索結果にも表示される重要な項目です。
「企業名+採用」を基本とし、ターゲットに応じて「新卒採用」「中途採用」などを明記しましょう。
- 良い例: 株式会社Manus(新卒採用)、Manus AI Recruit
- 悪い例: まーなすちゃん(企業名が不明)、Manus(採用アカウントか不明)
プロフィール文の書き方(テンプレート付き)
プロフィール文は、150文字という制限の中で、企業の魅力を簡潔に伝える必要があります。
以下の要素を盛り込み、求職者の興味を引く文章を作成しましょう。
必須要素
- 何をしている会社か(事業内容)
- 採用アカウントであることの明記
- 発信する情報(どんな投稿をしているか)
- ターゲットへのメッセージ
- 採用サイトへの導線(URL)
テンプレート
【株式会社〇〇 新卒採用】 「テクノロジーで世界を豊かに」をビジョンに掲げるIT企業です。 ▶︎若手社員のリアルな働き方・成長ストーリーを発信中! ▶︎説明会やイベントの最新情報もお届けします #26卒 #27卒 の挑戦をお待ちしています! ▽エントリーはこちらから [採用サイトのURL]
リンク設定とLinktreeの活用
プロフィールに設定できるURLは1つだけです。
しかし、採用サイト、エントリーフォーム、説明会予約ページなど、求職者に見てほしいリンクは複数ある場合がほとんどです。
そこでおすすめなのが「Linktree」などのリンクまとめツールです。
Linktreeを使えば、1つのURLから複数のリンク先へ誘導するランディングページを簡単に作成できます。
これにより、求職者を迷わせることなく、目的のページへと案内することが可能になります。
ストーリーズハイライトの初期設定
ストーリーズハイライトは、過去に投稿したストーリーズ(24時間で消える投稿)をプロフィール下に常時表示させておける機能です。
カテゴリ別に情報を整理することで、新規訪問者が企業の情報を効率的にキャッチアップできます。
設定すべきハイライトの例
- 会社紹介: 事業内容や沿革をまとめる
- 社員紹介: 様々な部署の社員を紹介する
- オフィス: 執務スペースや休憩室などを紹介する
- 福利厚生: 独自の制度やイベントを紹介する
- Q&A: よくある質問への回答をまとめる
よくある設定ミスと対策
アカウント設定で陥りがちなミスを事前に把握し、対策することで、スムーズな運用スタートを切ることができます。
- 個人アカウントのままにしてしまう: ビジネスアカウントへの切り替えを忘れると、インサイト機能が使えず、効果測定ができません。必ず最初に切り替えましょう。
- ユーザーネームに記号を使いすぎる: アンダースコア
_やピリオド.以外の記号は使えません。また、多用すると検索しにくくなるため、シンプルにしましょう。 - プロフィールリンクを設定し忘れる: 採用サイトやエントリーフォームへの重要な導線です。必ず設定し、定期的にリンク切れがないか確認しましょう。
- カテゴリ選択を間違える: プロフィールに表示される業種カテゴリです。自社の事業内容に最も近いものを選択しましょう。不適切なカテゴリは信頼性を損なう可能性があります。
アカウント作成後の初期運用ステップ
アカウントを作成しただけでは、求職者に見つけてもらうことはできません。
最初の1週間で以下の5つのアクションを実行し、アカウントの存在をアピールしましょう。
- プロフィールを充実させる: 本記事で解説した5つの要素をすべて埋めましょう。
- 最初の投稿を行う: まずは企業の自己紹介投稿から始め、アカウントの方向性を示します。
- ストーリーズを投稿する: 24時間で消える手軽さを活かし、オフィスの様子や社員の日常などを発信してみましょう。
- 関連するハッシュタグをフォローする: 「#26卒」「#就活」など、ターゲットが使いそうなハッシュタグをフォローすることで、情報収集ができます。
- 同業他社や大学のキャリアセンターなどをフォローする: 関連アカウントをフォローすることで、自社アカウントの認知度向上にも繋がります。
複数アカウント運用の場合の注意点
企業によっては、新卒採用と中途採用でアカウントを分けたい場合もあるでしょう。
その際の判断基準と注意点を解説します。
- 新卒・中途で分ける場合の判断基準: ターゲット層が大きく異なり、それぞれに特化した情報を届けたい場合に有効です。ただし、運用リソースが2倍になるため、人員体制を考慮して判断しましょう。
- 複数アカウントの切り替え方法: 1つのアプリで最大5つのアカウントを管理できます。プロフィール画面左上のアカウント名をタップするだけで、簡単に切り替えが可能です。
- 一元管理ツールの活用: 投稿予約やコメント管理などを効率化したい場合は、「Meta Business Suite」などの公式ツールや、サードパーティ製のSNS管理ツールの導入を検討しましょう。
初投稿前の最終準備
プロフィール設定が完了したら、いよいよ投稿です。
最初の投稿はアカウントの印象を左右する重要なものです。以下の準備を整えましょう。
- 投稿テーマの決定: 最初の投稿は「自己紹介」が基本です。会社概要、事業内容、このアカウントで何を発信していくのかを伝えましょう。
- コンテンツカレンダーの作成: 週に何回、何曜日の何時に投稿するかをあらかじめ計画しておくと、継続的な運用がしやすくなります。Excelやスプレッドシートで簡単なもので構いません。
- 初投稿のタイミング: ターゲットとなる学生や社会人がInstagramを最も利用する時間帯を狙いましょう。一般的に、平日の朝(7-8時)、昼(12-13時)、夜(20-22時)がアクティブとされています。
まとめ:アカウント作成チェックリスト
最後に、本記事で解説した内容をチェックリストにまとめました。
アカウント作成から運用開始までの抜け漏れがないか、最終確認にご活用ください。
【戦略設計フェーズ】
- [ ] 採用目的とKPIは設定したか
- [ ] ターゲット人材のペルソナは明確か
- [ ] 競合アカウントの分析は完了したか
- [ ] コンテンツの方針は決定したか
【アカウント開設フェーズ】
- [ ] アプリをダウンロードし、新規登録したか
- [ ] ユーザーネームとアカウント名は適切か
- [ ] ビジネスアカウントに切り替えたか
- [ ] 連絡先情報とFacebookページ連携は完了したか
【プロフィール設定フェーズ】
- [ ] プロフィール画像は設定したか
- [ ] プロフィール文に必須要素は盛り込まれているか
- [ ] 採用サイトへのリンクは設定したか(Linktree推奨)
- [ ] ストーリーズハイライトのカテゴリは準備したか
【初期運用フェーズ】
- [ ] 最初の投稿(自己紹介)は準備したか
- [ ] コンテンツカレンダーは作成したか
- [ ] 関連アカウントやハッシュタグをフォローしたか
このチェックリストをすべてクリアすれば、Instagram採用の準備は万全です。
自信を持って、情報発信をスタートしましょう。
参考文献
[1] 総務省情報通信政策研究所. (2023). 令和4年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書.
執筆者プロフィール
株式会社but art 代表取締役社長 山口 裕生 愛媛県主催のSNSセミナー講師も務める。
大手企業~中小企業まで100社以上のSNS内製化支援実績を持つ。
